八ヶ岳 中山尾根

今年の雪山は八ヶ岳のアルパインクライミングから始まった。中山尾根。八ヶ岳で難しいルートの1つとされるバリエーションルートだ。そうとは知らずにトシゾーさんから誘われ、「いいですね!」と返事をしてしまった。最近はクライミングばかりで、歩いていなかったから体力不足が心配だった。しかも天気が気温が高いがくだり気味とのこと、ちょうど岩を登っている頃に天気が荒れてくる予報であった。トシゾーさんと相談したら、「行くだけいって、様子をみよう」ということになった。
ジムニーで美濃戸まで行き、行者小屋を目指した。歩き始めはよかったが、次第に荷物の重さがつらくのしかかってくる。トシゾーさん、Qさんに追いつこうと無言で歩いた。辺りを見回す余裕はなく、足元しか見ていない状態が続いた。行者小屋にもう着くだろうと、何かの拍子で止まった時だった・・・。「痛い!」両足の膝上の筋肉に痛みが走った。その時から、足を上げるたびに膝上部分が痙攣しているような、つりそうになるような痛みとの闘いが始まった。
行者小屋につきテントを張り、出発の準備をした。陽がかげり一気に凍える寒さに、雪の世界に来てしまったのだと痛感した。
見上げると、これから向かう中山尾根の黒々とした岩壁が立ちはだかっていた。嫌な雲が広がりつつあり、青空と稜線が消えていった。それと同時に冷気がやってきた。治まった膝の痛みと天気が心配だが、下部岩壁まで行ってみようということになった。どのぐらいの時間で岩場を抜けられるのかわからないので、ヘッドライトを持った。
中山峠から中山尾根に入るのだが、膝の痛みに再び襲われ、足を上げる度にくじけそうになった。しかし、のんびりとはできない。吹雪の中のヘッドライトによる下山はどうしても避けたかった。難しいとされる1ピッチ目。先行パーティーは苦労しているようだった。トシゾーさんによるリードは、岩の弱点を見事に読んだ登りで、いとも簡単に2つ目のペツルにヌンチャクを掛けた。Qさんもいいホールドに手が届き順調に登っていった。そして私の順番がきた。「あれ?どうしよう?」ホールドをオーバーグローブの厚さでしっかり持てずアタフタしている間に腕がパンプしてきた。もっとロープを張ってくれ!と心の中で叫んでいたが、後ろに別パーティーがいたので声に出せずに、無理やり登った。別パーティーがいなければとっくにテンションをかけていただろう。見栄でなんとか登った。
下部岩壁を過ぎ、コンテで進むが、ガスで視界が無く、自分がどんな所にいるのかわからなかった。おかげで、恐さを感じないで歩けた。
上部岩壁手前で先行パーティーが登るのを待つ間、雪を削りイスを作って、テルモスの温かいほうじ茶を飲んだ。胃に染みいる感じがわかるほどうまい。
上部岩壁をリードするトシゾーさんの姿はまるでアウトドアのパンフレットの写真のようだ。この後、ビレイ解除するときATCを落としてしまった。ロープを張ってもらい回収できたのだが、慣れないグローブでの操作は気を付けなければいけない。
ここが核心部分のハングだ。トシゾーさん、Qさん二人ともうまく越えていった。足の置き場にアイゼンの爪あとが残っているので、わかりやすい。
今回トシゾーさんにリードを任せ、セカンドに徹したので、楽しく登らせてもらった。しかし、気になるのは天気の下り具合。段々と風が強くなってきた。上部岩壁を過ぎ、しばらくコンテで上り、ペツルがある所を左に登ったあとにトラバースするのだが、この部分をトシゾーさんはフリーで登っていた。度胸がなければ登れない斜面だ。
「稜線に出るから、突風に気をつけて!」とトシゾーさんが強風の中で叫んだ。岩を登りきっても心配は続き、達成感に喜ぶ暇はない。「天気が荒れる前に下りないと・・・」皆がそう思っていた。踏み後がわかり、風も歩けないほどまで強くはなかったので、難なく地蔵尾根までたどり着くことができた。
お地蔵さんに感謝し、地蔵尾根を下って行者小屋に着いた。そこには、静岡労山の別メンバーがテントの中で、宴会の準備をしながら楽しそうに過ごしていた。
おいしいパスタやチーズフォンデュ、そしてホットワインで満たされ眠りについた。他の労山グループは翌日、赤岳に早朝アタック。私達は朝ごはんを食べ、テントを撤収し、下山した。雲ひとつない青空に悔しい思いをしながら、それでも疲れたので温泉のほうがいいと足早に下りていった。旅の後、何か欠けているような淋しい感じを私達は抱えていた。それはbikubikuboysの仲間が帰ってこないからだ。いつ戻ってくるのかな?有東木ボルダーでも行きませんか?

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