朝3時ごろ、乾いた風で明るくなったたき火の火に目が覚めた。しばらくして、起き上がり薪を追加してお湯を沸かし、釣りをしながらのんびりしていた。ツッチャンも起き、ラーメンを食べ出発準備をした。前日、コッパ沢の20mの滝を右から巻いたのだが、急なガレ場に重たい荷物はちょっと不安だ。地図を見ると右岸のほうが沢に戻りやすそうなので、行ってみることにした。どちらも急登は避けられないが、懸垂下降なしにクライムダウンで沢に降りることができた。
ただ、巻き道が少し長く、20m滝の後の滝を見られなかったのは残念だ。沢に入り、釣竿を出そうとすると、「キャー!」大きなナメクジが!
コッパ沢の渓相は、ゴルジュが多くきれいだった。泳ぐ箇所もあったが、難しいところはない。
新しく買ってしまったテンカラ竿 シマノ渓峰テンカラLLS33。いい感じで振れる。逆さ毛ばりも試してみた。
ツッチャンもテンカラで釣っていた。中ぐらいのサイズのイワナが釣れるが、この日はすべてリリース。おかげで、竜神の怒りに触れず、明るい日が差し込んでいた。
釣りに夢中になってしまうが、この日は未開の帰り道が待っていた。コッパ沢から、西へ出る初めの支流を登り始めると、後ろから吹き上げるさわやかな風に、「竜神の吐息だ」とツッチャンがつぶやいた。源流に近い奥地に来たのだが、この時の満たされた気持ちはとても素晴らしかった。
沢は25mほどの大きな滝によって、立ちふさがれたようになった。滝の左の枯滝をツッチャンはフリーで登るが、
疲れのたまっていた私は、枯滝のさらに左にあった太いワイヤーをゴボウで登った。急なガレ場なので高度を上げるとワイヤーなしでは登れなかった。
もろい斜面を登り、尾根に出る。支流の沢から尾根に逃げようと、地図上で予測していた。
尾根上のなだらかな場所にあった荒れ果てた作業小屋を見つけた。これほど大きな作業小屋は見たことない。休憩をして着替え、山登りに備えた。ここから稜線を目指すが、苦しい試練が私たちを待っていた。沢から離れたので、暑さが襲ってきた。少しずつ遅れを取り始めた私は、休み休み登って行った。そして、突然現れたトラバースしている道。右へはなだらかに登っている。私たちの向かう方向は左だが、なぜか下っていた。しっかりした道はどこに向かっているのか?ひとまず左へ進んでみた。とても歩きやすいが少しずつ下がっている。もっとこの道をたどりたい気持ちはあったが、稜線を目指して藪の中へ入った。木の藪だった。
足元は根と苔の歩きにくい地形で、木の藪に行く手をさえぎられ、視界はなく、延々と続くかのように思われた。高度計を何度も確認した。そして、やっと稜線に出る。(標高1700m付近・五林沢口より南の地点)歩きやすい稜線を期待したが、先ほどよりはましだとしても、藪に近い道だ。木々の間から見える朝日岳へは、さらに200m登らなけれならなかった。
踏み跡は薄いが、それでも道になっていたので、歩きやすくはなっていた。しかし、これほどまで追い込まれたのは久しぶりだ。登りながら考えたのは、自分の家族のこと。「早く家族に会いたい」と願いながら歩いた。そして珍しく視界が開けると、深南部の山々が見えた。「鎌崩!?」トシゾーさんとの雪の鎌崩通過を思い出し、ひとり感慨に浸った。その横の鹿の平は山桜やシュウとの思い出の場所でもある。
足久保山岳会で来て以来7年ぶりの朝日岳山頂にやっと着いた。フラフラしていたが、ホッとした。これでもう登らなくてすむからだ。しかし、その考えは間違っていた。この後、初めて、下りでのシャリバテを経験した。ヒルを警戒して沢靴のままで降りたのが失敗だった。渓流アイゼンをつけるが、その頃には膝がやられ踏ん張りがきかず、ツッチャンから大分後れを取りながら久しぶりの合地ボツで休憩した。休憩しながら、数々の試練を乗り越えたこの冒険をツッチャンと振り返った。
車に着くと、たまたま通りかかったツッチャンのお父さんがスポーツドリンクをくれた。渇いた体に染みわたった。今回の冒険を分かち合ったツッチャン(体力、泳ぎ、クライミング、釣りとどれもすごい)、そして許可してくれたそれぞれの家族に感謝!豊かな沢の自然は、雄大で素晴らしかった!
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