雨は強くなる一方だった。辺りは暗くなり、沢と雨の音が強調されていった。寝るギリギリで乾いた服に着替えようと、濡れた衣服のままでいたので寒かった。
太い3本の木を組み合わせ、大葉を屋根に見立て雨を防いでみた。太い木で下地を作り、細かい枝をバケツ1杯ほど集め、その上に中位いの木を置き、100円ショップで買った着火剤を細かい枝の下に置き点火した。この時点では、火がつく気がしない。
煙が上がり、枝の中の温度が上昇すれば良いらしいが、安心できるほどの火がつかない。もう一つの着火剤を加えると、やっと火がつきだし、これでもう大丈夫という焚き火となった。この火でご飯を炊きながら、暖を取った。ご飯と缶詰、そして紅茶を飲み、服を着替え寝る準備をした。<
夜中、雷と雨の音で目が覚めた。顔の部分は雨が入り込み濡れてしまった。それでも、疲れていたので、雨が弱まるとぐっすり寝れた。「シュラフカバー無しではヤバかった」と晴れた次の日の朝にツッチャンが話していた。雷雨が降る奥深い沢の夜を、タープだけで越せたのだ。増水や、雷が落ちてこないか?と震えた暗闇は過ぎ去ったのだった。陽の光に感謝しながら、朝食をとった。
タープやシュラフカバーを乾かし、ゆっくりと出発の準備をしたのだが、この時はこの先起こる想定外の冒険を知る由もなかった。この日の夕方はツッチャンの弟が家族の顔合わせをするので、早めに帰宅しなければならなかった。それでも、お昼過ぎには下山できると考えていた。
牛首の辺りまで詰めたほうが、道を見つけやすいと考え、尾根まで詰めた。意外と時間がかかり、さらに先ほどまでの天気は急変した。
雷が鳴り出し、強い雨が降り出した。ここから少しずつ、予定が狂い始めた。牛首まで出て地図上の道路から峠を探すと、通行止めのテープがあった。通行止めのテープを潜り進むが、
通行止めになって当然な箇所が、多々あった。地盤が弱く、数箇所で崩壊が起こっていたからだ。しかも、雨でぬかるんだ道だと、沢靴で歩きにくい。それでも、上西河内への道ほどは悪くなかったが・・・。
道が登山道といえるしっかりしたものになり小屋があったので、早めのお昼を取った。
コンヤ沢出会いに降りるには登山道からそれて尾根を進む必要があった。2回通ったことがあったので、間違うことはないと完全に過信していた。そして、おそらく、このコンヤ沢の看板のところで、間違えた尾根に進んでしまった・・・。
速いペースで降っていたが、地図と地形の違いに違和感を抱き始めた。間違えた箇所は、この時はまだまったく気付かなかった。トラバースして違う尾根に着き、戻ったと安心したが、それでもまだ間違えていたが、私はそれにも気付いていなかった。地形と地図は違っているのに、その間違いを受け入れることができなかった。すると、横に延びる道に出た。「何だ、この道!?」完全に迷宮入りしてしまった。追い討ちをかけるように、ビニールに書かれた「子連れの熊・・・絶対に入らぬこと!」の文字・・・。もう入っていたよ!
横に延びた道を東に進んだ。ここも荒れた道で疲れた体には厳しい。ホーキ沢あるいはコンヤ沢の上流には出たくなかった。雨による増水と沢を降るには時間がかかってしまうからだ。なるべく下流に出ようと降っていった。両サイドから沢の音が聞こえ始めた。左は安倍川のはずだが、距離や地形がどうも合わない。ここではない!と引き返すと、「ここさっき通ったよ!」とツッチャンが気付いた。もう私の頭の中は、パニックに陥っていた。「沢に降りるしかない」と冷静なツッチャンが道を進んでくれた。
間違えた割には軌道修正があったおかげで、コンヤ沢とホーキ沢の出合いに降り立った。増水はひどくなく、沢をしばらく歩き、
何とか、「コンヤ沢」脱出!「助かった・・・」深い安堵のため息をついた。
堤防はすべて懸垂下降で降りた。時間も、ギリギリ間に合う時間に下山できた。非常時でも、冷静なツッチャンに感謝。いくつもの困難を乗り越えた冒険記となった。
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